POLARIS

「分かりました」を、理解したことにしない

引き継ぎでも研修でも、最後は本人の返事で確認が終わります。 ところが返事は、分かったかどうかではなく、その場の空気で出ます。 人の目と耳だけに任せた確認は、あとで同じ場所に穴が開きやすくなります。

目で見て確かめても、閉じない穴がある

当社で実際にあった話です。ある一日に、お客様へお出しする予定の文面の中で、 日付の曜日が4か所ずれていました。「9月29日(月)」と書いてあって、実際は火曜。 しかもそのうち2つは、社内の読み合わせを通ったあとの文面に入っていました。 4件とも送信前の機械の照合で止まっており、お客様には届いていません。 ただ、人の目は4回とも素通りしたというほうが、ここでは大事な事実です。

見落としが起きたのは、注意が足りなかったからではありません。 曜日は、読んでも合っているように見えるからです。 日付と曜日の対応を、人は文章を読む速さでは検算しません。 この種の誤りに対して、目視の確認は原理的に効きません。

結局これを見つけたのは、日付をカレンダーと突き合わせる小さな仕組みでした。 人が4回すり抜けたものを、照合は1回で拾いました。

いま

確認のしかた
読んでみて、おかしくないか

↓ 見る人が変わっても同じ見方

  • 作った本人が読み返す
  • 上長が目を通す
  • 本人に「大丈夫?」と聞く

全員が同じ見方で見る=
同じところをすり抜ける
→ 通ったのに間違っている

照合を1つ挟んだあと

確認のしかた
何と突き合わせるかを決める

↓ 読む以外の見方を1つ足す

  • 日付 ↔ カレンダー
  • 金額 ↔ 見積の元表
  • 手順 ↔ 実際にやってもらう

読んでも気づけないものが出る=
人は判断のほうに集中できる

図:確認の回数を増やすのではなく、見方を1種類足します。

人が作ったものを、同じ人が同じ見方で確かめても、穴は閉じません。足すべきは回数ではなく、突き合わせる相手です。

研修と引き継ぎで、同じことが起きている

教える側は、伝えた内容を覚えています。ですから受け手の「分かりました」を聞くと、 伝わったところまで一緒に確認できた気になります。 けれど本人が確かめているのは、説明が分かりやすかったかであって、 明日ひとりでできるかではありません。

理解度テストが無駄だという話ではありません。ただ、説明の直後に用語を選ばせる形にすると、 突き合わせる相手が「説明」のままになります。測っているのは、さっきの話を覚えているかどうかです。 日付にはカレンダーという正解表がありますが、仕事の進め方にはそれがありません。 正解表が無い仕事では、突き合わせる相手を本人の手元の実物に置きます。

いちばん簡単なのは、受け手にその場で一度やってもらうことです。 説明の再現ではなく、実物を1件。詰まった場所が、そのまま 教材に書き足すべき1行になります。

測る物差しは、前と後で同じものを使う

もう一つ崩れやすいのが、効果の見方です。研修の前は「できていない人が多い」と言い、 終わったあとは受講後アンケートの満足度を見る。 これでは前と後で違うものを測っているので、変わったのかどうかが分かりません

前に測ったものを、後でもう一度測る。ここでまったく同じ課題を使わないのがこつです。 2回目が良くなるのは当たり前で、同じ問題を2度解いたぶんが混じります。 同じくらいの難しさの別の3件を用意しておいて、詰まった箇所の数を数える。 それも、終わった直後ではなく、1〜2か月あけてもう一度測ります。 件数が少なくても、条件をそろえてあれば比べられます。

ひとりに教えるのと、全員に同じ品質で渡すのは別の問題

ここまでの3つは、上長が明日から自分でできることです。人数が数人なら、これで足ります。

詰まるのは、拠点や期の採用をまたいだときです。「1件やってもらう」を回せるのは、 いちばん出来る人だけ。その人の時間は有限で、教える相手が増えるほど、 教える内容そのものが人によってずれていきます。 結果として、同じ会社なのに配属先で仕上がりが変わる。 ここから先は、教え方の工夫ではなく、いちばん出来る人の型を教材の側へ移す作業になります。 そのときも、突き合わせる相手を実物に置く考え方は変わりません。

今週できる3つ

ここだけ持ち帰っても回ります。1つ目は5分で終わります。

1

直近の引き継ぎを1つ選び、突き合わせる相手を書く

「何と照らして正しいと言えるか」を一行。カレンダー、見積の元表、前回の納品物。相手が書けない項目は、いま誰も確認できていない項目です。

目安5分/材料=直近の引き継ぎメモ1枚

2

「分かりました」の代わりに、1件やってもらう

説明のあとに、実物を1件その場で。詰まった場所をメモします。聞き返された内容ではなく、手が止まった場所が、教材に足りない1行です。

目安30分/材料=実際の仕事を1件

3

同じ難しさの別の3件で、もう一度測る

満足度ではなく、詰まった箇所の数を数えます。同じ課題を使い回すと2回目が良くなるだけなので、別セットを先に用意しておきます。測るのは1〜2か月あとです。

目安30分/材料=研修前に測った記録と、予備の3件

確認を厳しくすると、現場は息が詰まります。増やすのは厳しさではなく、見方の種類です。 機械で照らせるものは機械に渡し、人は判断に使う。この線を引いておくと、 人が替わっても同じ品質で渡せるようになります。

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